2018年1月22日月曜日

文部省『讀方入門』明治十七年

お久しぶりです。まほらです。

最近は言語学や英語史、日本語史やらにハマったりしていて、暇な時は主に本を読んでいたのでブログを書く暇があまりとれなかった。

で、日本語史を勉強するなかで、「変体仮名」を少し覚えようと思って『変体仮名とその覚え方』(板倉聖宣,2008,仮説社)を読んでみたのだが、ここに収録されている『読方入門』が非常に面白い。

『読方入門(讀方入門)』は、明治17年に文部省が発行した小学校低学年向けのテキストなのだが、ひらがなが正体・変体あわせて103個も収録されているという代物で、さらにこの頃はまだ旧仮名遣いが使われているため、「てうるゐ(=ちょうるい、鳥類)」などという表記が出てくる。本当に小学生に読ませる気があるのか? という気がしてくるが、明治初頭の日本語はそうなっていたのだ。



『読方入門』の全文は国立国会図書館デジタルコレクションで確認できるので、ぜひ確認してみてください。
1枚分をこちらに引用しておくと、
国立国会図書館デジタルコレクション - 読方入門より
このような感じだ。「第十五課」という見出し以外はすべてひらがなで書かれているのだが、変体仮名を知らないとうまく読むことができない。

変体仮名を読む練習をして、この『読方入門』くらいはすらすら読めるようになったので、すべてテキストに起こしてPDF化してみた。一部の句読点は読みやすいように変更している。また、素人によるテキスト起こしなので、間違っている部分もあるかもしれない。指摘していただければ直します。



一応、以下に全文をテキストとしておいておく。


明治十七年三月印行
讀方入門文部省編輯局

讀方入門

教師須知六則

一 本書ハ、小學ノ最下級ニ於テ、初學生徒ニ讀方ヲ授クルノ用ニ供シタルモノナレバ、其教方懇到呵嚀ヲ旨トシ、徒ニ多數ノ文字ヲ授ケ、却テ復讀温習ヲ怠ラシムルガ如キコトアル可カラズ。

一 平假名、片假名ヲ授クルハ、何レヲ先ニスルモ妨ゲナシト雖モ、大抵一日平均四字ヲ以テ定度トシ、兩樣通シテ、大凡六週間ノ課業トスベシ。又正體假字ノ下ニ附セル變體假字ハ、最初ニ於テ之ヲ教フルヲ要セズ、單語、短句中ニ散見スルニ随テ之ヲ授クベシ。

一 五十音ハ、専ラ發音ヲ正スヲ旨トシ、且前ニ授ケタル所ノ片假名ヲ練習センガ爲メニ、之ヲ授クルモノトス。其課業ハ濁音、次清音ヲ併セテ、概ネ二週間以下ノ時日ヲ要スベシ。

一 數字ハ、日用必須ノモノニ止メ、万以下ニ限リテ之ヲ授ケ、一週間以内ノ課業トスベシ。

一 單語、短句、第一課ヨリ第十課マデハ、主トシテ平假名ノ正變二體ニ習熟セシメ、且其變音(「へ」ヲ「エ」ト唱ヘ、「は」ヲ「ワ」ト唱フルノ類)、及ビ濁音ヲ教ヘ、又其第十一課ヨリ第十六課マデハ、之ニ拗音(「きやう」ヲ「キョー」ト唱ヘ、「えう」ヲ「ヨー」ト唱フルノ類)、及ビ次清音ヲ加ヘテ、其呼方ヲ知ラシメンガ爲メナリ。故ニ本書ヲ用フルモノハ、書中載スル所ノ事物ノ名稱等ニ拘泥スルコト莫レ。

一 單語、短句ヲ授クルニハ、先ヅ各課ノ前ニ掲記セル單語ヲ授ケテ、十分之ニ熟セシメ、然ル後其ノ單語ヨリ成レル短句ヲ授ケテ、其句意、章意ヲ了解セシムルヲ善シトス。(例ヘバ いね・わた・ほ・はな、ノ單語ヲ授ケ、之ニ熟スルヲ待チテ、いねのほ・わたのはな ノ短句ヲ授クルガ如シ。)其授クル所、一週間大凡二課ヲ限リトシ、全課通シテ、概ネ八週間ノ課業トスベシ。

讀方入門

平假名
(ひらがな表 省略)

片假名
(かたかな表 省略)

五十音
(五十音表 省略)

濁音
(濁音表 省略)

次清音
(半濁点表 省略)

數字
(漢数字表 省略)

單語短句

第一課
いね、わた、ほ、はな。
まつ、たけ、き、えだ。
いね の ほ、
わた の はな。
まつ の き、
たけ の えだ。

第二課
ほん、じ、よみ、かき。
もの、ちゑ、しり、ひらく。
ほん を よみ、
じ を かき。
もの を しり、
ちゑ を ひらく。

第三課
きく、ふぢ、き、むらさき、なり。
やなぎ、はな、みどり、くれなゐ。
きく は、 き なり、
ふぢ は、むらさき なり。
やなぎ、は みどり、
はな は、くれなゐ なり。

第四課
そら、ひ、いろ、あをく、あかし。さぎ、からす、しろき、くろき、とり。
そら の いろ は、あをく、ひの いろ は、あかし。
さぎ は、しろき とり なり、からすは、くろき とり なり。

第五課
うま、ひと、の、いへ、ゆき、かへる。いぬ、ゐのこ、さき、うしろ、はせ、きたる。
うま は、の に ゆき、ひと は、いへ に かへる。
いぬ は、さき に はせ、 ゐのこは、うしろ に きたる。

第六課
おや、きみ、こ、たみ、そだて、めぐむ。おん、つねに、わする、なかれ。
おや は、 こ を そだて、きみ は、たみ を めぐむ。
きみ と、おや との おん をば、つね に、わするゝ こと なかれ。

第七課
よき、こゝろ、こども、よろこばせ、ちゝはゝ。あしき、あらそひ、わらべ、おこす、ともだち。
よき こども は、ちゝ はゝ の こゝろを、よろこばせ。あしき わらべは、ともだち と、あらそひ を おこす。

第八課
うぐひす、ほとゝぎす、ね、こゑ、たのしく、かなし。なんぢ、われ、いづれ、ことに、このむ、あいす。
うぐひす の ねは、たのしく、ほとゝぎす の こゑ は、かなし。
なんぢ は、いづれ を このむぞ、 われ は、ことに、うぐひす を あいす。

第九課
はる、なつ、あたゝか、あつく、はな、くさき、さき、しげる。
あき、ふゆ、ひやゝか、さむく、つゆ、ゆき、ふかく、ふる。
はる は、あたゝか にして、はな さき、なつは、あつく して、くさき しげる。
あき は、ひやゝか にして、つゆ ふかく、ふゆ は、さむく して、ゆき ふる。

第十課
あさ、よる、はやく、しづかに、おき、いね、まなび、やすむ。
がくもん、をしへ、かしこき、おろか、ひと、なり、なる。
あさ は、はやく おきて まなび、よる は、しづかに いねて やすむ べし。
がくもん すれば、かしこき ひとゝ なり、をしへ ざれば、おろか なる ひとゝ なる。

第十一課
きやうだい、したしみ、たがひに。えうしや、あふぎ、ちやうしや、たふとむ。
きやうだい は、たがひ に、したしみ あいす べし。
えうしや は、ちやうしや を、あふぎ たふとむ べし。

第十二課
あうむ、よく、てうるゐ、ことば、まなび。さる、しゆ/゛\、じうるゐ、げい、ならふ。
あうむは、てうるゐ なれども、よく ことば を まなび。
さる は、 じうるゐ なれども、しゆ/゛\ の げい を ならふ。

第十三課
てふ、その、はな、いのち、つゆ、たもち、すひ。りす、この、さうもく、よ、み、をふる、しよくし。
てふは、はなの つゆ を すひて、その いのち を、たもち。
りすは、さうもくの みを しよくして、このよ を をふる もの なり。

第十四課
りやうやく、ちゆうげん、くち、みゝ、にがく、さかふ。けんかう、びやうき、ひと/゛\、おの/\、わざはひ、さいはひ。
りやうやく、くちに にがく、ちゆうげん、みゝ に さかふ。
けんかう は、ひと/゛\ の さいはひ なり、びやうき は、おの/\ の わざはひ なり。

第十五課
いけ、には、こひ、あさがほ、きんぎよ、ゆふがほ。てうせき、うんどう、やうじやう、たすけ。
いけ に、こひ と きんぎよ と あり、には に、あさがほ と ゆふがほ と あり。
てうせき の うんどう を たすけ、しんたい の やうじやう と なる。

第十六課
たいこ、いくさ、らつぱ、とき、たいはう、うつは。ぽんぷ、くわじ、はしご、ふせぐ、とびぐち、だうぐ。
たいこ、らつぱ、たいはうは、いくさ の とき の うつは なり。
ぽんぷ、はしご、とびぐち は、くわじ を ふせぐ だうぐ なり。

讀方入門終
定價金七錢四厘

明治十七年二月五日出板板權所有届
文部省編輯局藏板


参考文献


  • 板倉聖宣『変体仮名とその覚え方』2008,仮説社

0 件のコメント:

コメントを投稿